第三回 新・経済連続講座「賃金・給料と国民経済」

新・経済連続講座  第3回「賃金・給料と国民経済」(「タラ、レバで考える・
民間給与総額・一人当たり民間給与、雇用者報酬、各国雇用者報酬推移)

    2017年8月 担当;眞嶋康雄     (練馬文化の会「会だより」2017.9月号別紙)

はじめに;前回の第2回講座でGDPの伸び率=経済成長率の停滞、すなわち国民経済の停滞と衰退が長期間、いわゆる「失われた20年」が経済政策の誤りであると指摘しました。あわせて、「タラ、レバ」でGDPが戦後最高であった 1997年(533 兆円)から約 20 年間に 1%の成長率が実現していたら、2016 年にはGDPが約 650 兆円に達しており、巨額の国債発行残高、国の借金の増大、増税、国民生活の窮乏化が税収の増加、給料・賃金の上昇などによって改善された可能性があります。今回も賃金・給料などの「タラ、レバ」の仮定で「逸失利益」の実態を明らかにします。
前々回(第 1 回)の「図表4 雇用者報酬&労働分配率の推移」で「(雇用者報酬(企業が生産する付加価値から賃金・給料など雇用者に分配する割合)が 1997 年の 279.0 兆円から 2014 年の252.4 兆円と減り続け、労働分配率は同時期に73.0%から 69.3%と減少傾向で、企業部門から家計部門への賃金支払い「所得移転」が極めて不十分」という説明がありました。今回は賃金・給料について「タラ、レバ」で考えてみます。
(1)民間給与総額推移の「タラ、レバ」
図表1の数値はサラリーマンの源泉徴収の際に国税庁が把握するものです。1990 年に 175.7 兆円あった民間給与総額は 1998 年に 222.8 兆円へと約 1.3 倍に増加し戦後最高を記録しました。しかし、その後減少し続けリーマンショック後の2011 年の191.1 兆円から底上げし、2015 年には204.8 兆円に届いたが、1993 年水準に達したに過ぎません。この間 1998 年の 222.8 兆円のまま2015 年まで続いていたら、17 年間のもらい損ない(逸失利益)は累計 340 兆円に達します。計算方法は 1998 年を基準に毎年の差額を足して累計します。一方、1998 年から 17 年間にもし、1998 年から 1%の増加が実現していれば、2015 年には民間給与総額は 264 兆円になっており、17 年間のもらい損ない(逸失利益)は、毎年の差額の累計320兆円となり、1998 年水準のままとの合計は 340+320=660 兆円となります。「タラ、レバ計算」による逸失利益ですが、経済運営と経済政策の結果でもあり、家計部門は大損させられています。
(2)一人当たり民間給与と「タラ、レバ」
次に民間給与総額を給与者数で割った「一人当たり民間給与」の推移について「逸失利益」を考えてみます。

民間給与総額と同じように 1998 年に戦後最高額 418.5 万円だった一人当たり民間給与はその後下がり続け、2015 年は 1990 年の水準にも達しない 361.2 万円で最も低い 2009 年の 350.4 万円から 10.8 万円増、最も高い 1998 年の 418.5 万円から 67.3 万円低いのです。図表1の民間給与総額と同じ計算方法で、1998 年と同額の給与が 2015年まで 17 年間続いていレバ、もらい損ない(逸失利益)は 794 万円、1998年からもし 1%の増加率が 17 年間続いていレバ、2015 年には 496 万円に達しており、もらい損ない(逸失利益)は 677 万円なり、二つのもらい損ない(逸失利益)合わせて1471 万円になります。平均 1 年間に 70 万円にのぼり、ここでも家計部門は大損させられています。
(3)雇用者報酬総額推移

次に、雇用者(他人または企業に雇われて働く者。人口減に反して年々増加)に対する報酬(賃金・給料、福利・厚生費等)の逸失利益を考えてみます。図表3では1997年の労働分配率が73.0%から 2014 年の 69.3%に下がり雇用者報酬も同時期に 279.0 兆円から 252.4 兆円に下がっています。民間給与(総額・一人当たり)と同じ計算方法で、雇用者報酬の取り損ない(逸失利益)をみると、1997年の水準のまま 2014 年まで続いていたら取り損ない(逸失利益)は 401 兆円、もし、同じ時期に 1%の増加率が続いていていれば、469 兆円の取り損ない(逸失利益)が生じます。両方を合わせるとその額は 870 兆円もの巨額になります。
(4)経済主体間の「所得移転」
これまで民間給与と雇用者報酬とで逸失利益をみてきましたが、その意味を考えて見ます。連続講座第 1 回・図表 1 で、国民経済と経済主体の関係性を説明しました。国民経済を構成する経済主体間で重要なのは、付加価値を産み出す企業部門から税として一般政部門へ、賃金・給料として家計部門へ、いわば「所得移転」されたかです。この付加価値の所得移転の循環がGDP増加などの国民経済の発展の推進力となりますが、これまでみた通り、賃金・給料の減少が続き経済の停滞をたらし、企業部門は内部留保の増加など貯蓄主体へ、一般政府部門は債務超過に陥っています。

(5)源泉所得税収と民間給与の関係

経済主体と所得移転を企業部門と一般政府部門との関係を図表4でみると、一人当たり民間給与が減少する中、源泉所得税収(歳入組入額)も減少するという相関関係が明らかで、GDPの減少、経済の衰退の原因の一つが示されています。
(6)諸外国の賃金・給料の推移

図表5では、2000 年を指数 100 とした 2014 年に至る各国の雇用者報酬の推移で、日本は 94 と唯一の減少に対して、他の諸国は 158 から 243 と著しく増加させています。日本の低賃金が際立っており、この事がGDPの停滞、日本経済の衰退の最大の原因となり、賃金・給料の減少⇒消費の減少⇒内需の停滞というマイナスのスパイラル、悪循環が起きています。

次回予告 新・経済連続講座第4回「雇用・労働問題と国民生活」