第一回 新・経済連続講座「日本経済の今」
新・経済連続講座 開始のお知らせ・ご案内
「新・経済連続講座」担当;眞嶋康雄(貫井在住) (「練馬文化の会・『会だより』2017.6 月号掲載)
ご挨拶;この度、練馬文化の会、「会だより」の新・経済連続講座」を前任者の古賀義弘先生のあとを受け、担当することになりました。
古賀先生は私たちの「商教協」代表理事をお願いし、大変お世話になり、古賀先生から経済の事実関係、実証研究の大切さをご指導いただきました。今回開始する新・経済連続講座で、経済事象に関する事実関係から経済テーマを理解する手法
を展開し、あえて「経済学」では無く、「経済」を知る機会にするために、ぜひ、皆さんのご要望・ご意見を寄せていただき、より良い講座にしたいと考えており、よろしく、お願いします。
略歴;中央大学商学部会計学科卒
◇◇;中央大学大学院商学研究科修士課程修了
◇◇;都立高等学校教諭退職
現在;國學院大學経済学部・文学部兼任講師
◇◇;全国商業教育研究協議会事務局長
新・経済連続講座予定(随時変更あり)
第2回「経済成長と政策」(GDP推移・ゼロ成長・名目・実質成長率・物価など)コラム②
第3回「賃金・給料と労働時間」(給与・賃金・長時間労働・サービス残業など)コラム③
第4回「少子高齢化」(人口減・少子化・高齢化・)コラム④
第5回「国債・財政問題」(日銀と国債・金融・財政・国の借金・一般会計・予算)コラム⑤
第6回「消費税と税制」(8%増税・税収構造・歳入組入額・還付金など) コラム⑥
第7回 以降未定
~公開経済連続講座を9月以降に予定~
新・経済連続講座 第1回「日本経済の今」(国民経済・経済主体・景気・企業業
績・給料・賃金・GDP・物価など) コラム「教育費の無償化」
はじめに;日本経済をマクロ(巨視)的に把握するために「国民経済」という概念を用います。
第二次世界大戦以後、多くの独立国家が成立し、経済的にも自立した一国単位の国民経済が成立しました。国民経済を構成する3つの経済主体が一般政府(国と地方自治体)、企業、家計の各部門で、各部門の関係性を示すのが「図表1」です。
国民経済は、家計部門から労働力の提供を受けて生産・流通活動を行い、多くの付加価値を生み出し、一般政府へ税を納める企業部門、企業に労働力を提供し、同時に賃金・給料を受け取り、商品・サービスを購入、一般政府に税を納める家計部門、企業部門や家計部門から税を受け 取り、公共サービスを提供し、財政活動をする一般政府の各部門で構成されます。経済を個々のデータ(指標)で捉えるのではなく、国民経済全体や経済主体間の関係性で捉えることが重要です。
(1)景気とは?
普通、「景気」という言葉は様々な意味で使われ、「景気が良い(悪い)」は、企業部門や家計部門で多く使われ、特に企業の売れ行きや利益などを指し、統計情報として株式市況、為替市場、求人・求職、GDP、消費者物価、金融・通貨量、企業業績などがあり、指標として「日銀短観」があり、3ヶ月おきの国内1万社の大企業と中小企業の経営者のアンケートによる企業の景況感で、主観的な景気の見通し判断です。最近では株価が絶対視されますが、景気の受け止め方は企業、国民それぞれで国民経済の各部門の経済統計で考えます。まず、企業側の統計として「企業法人統計(財務省)」の企業業績を「図表2」でみると売上高は 2007 年の 1508.2 兆円をピークに減少傾向にあり、2014年には,44.8 兆円、約 130 兆円減少、経常利益は2014 年にピークを迎え、2009 年のリーマン・ショック後の 32.1 兆円から 64.6 兆円へと 2 倍に、3 年連続戦後最高額を記録し続けて、当期純利益も経常利益と同じく、2009 年の 12.3 兆円から2014 年に 41.3 兆円と 3 倍強の増加し、戦後最高となり、内部留保は4割増 390 兆円に達し、配当金も戦後最高を記録し、東証一部の 5 社に 1 社が戦後最高益を記録、企業業績は絶好調です。
株価と売買代金推移を「図表3」でみると、2012年の約1万円台から約2万円へ、売買代金も2倍、株式市況が活発化し、企業の時価総額も 2 倍増となり、しかし、株式取引額の多くが海外金融機関や日銀で、富裕層の金融資産も倍増しました。
次に家計部門の雇用者報酬を図表4でみると、1997 年の 279.0 兆円から 2014 年の 252.4 兆円と減り続け、労働分配率は同時期に 73.0%から69.3%と減少傾向で、企業部門から家計部門への賃金支払い「所得移転」が極めて不十分です。
次に一般政府部門の税収=徴収税額である「国税収納金」の推移を「図表5」でみると、2014年度の消費税 8%の増税で総額 67.5 兆円、消費税収が 8 兆円、比率が 10%増加、所得税収も増加、合計 45.2 兆円、比率が 66.8%、家計部門に重い負担となる一方、法人税収は約 0.8 兆円、比率は 4.5%減少。一般予算約 100 兆円の 4 割を国債で賄い、国の借金は 1000 兆円を超え財政も危機的な状況、政府部門は 2009 年に債務超過。
国民経済の各部門それぞれ企業は好調、ただし業種、規模の大小によって、家計は労働者に冷たく富裕層には温かく、一般政府は財政悪化し、一般企業なら倒産状態という所で、経済主体内と経済主体間での歪みと格差が拡大しています。
コラム①「教育の無償化」;すでに、憲法第 26 条「すべての国民は・・・、ひとしく教育を受ける権利を有する」、教育基本法第 5 条「義務教育はこれを無償とする」とされ、義務教育段階は無償化とする事が銘記されるが、高等教育の無償化は政策的に可能であり、「憲法改正」の口実とするには無理がある。国連人権A規約(社会権規約)の高等教育の漸次的(段階的)無償化(第 13条等)はこれまで日本政府は「受益者負担主義」を口実に批准を留保(160 ヶ国中マダガスカルとわずか2ヶ国)、2012 年閣議決定で留保を撤回。しかし高等学校段階の一定の無償化を実現したが、給付金制度など大学等の教育の負担減への取組みも全く不十分。貧困の連鎖を断ち切り、労働力の流動性と職業能力、生産性の向上、職業選択の自由の実現など、社会経済的に極めて有効な教育費の負担減、無償化政策の実施が早急に必要である。